Kyon {Silence Of Monochrome}

Kyon {Silence Of Monochrome}
上記をクリックするとKyonイラストのホームページとなります。ぜひご覧ください。

2017/11/15

ツマグロヒョウモンの日記 ③ 元気でね

11月15日

今日は晴れで、天気予報によれば小春日和の陽気だという。
昨日、外で羽化したあのこは元気に飛べているかしらと思いながら、
うちで羽化したこたちの旅立ちに良い日だと思った。




9時半ごろ、ケースを覆っていた黒い布を外すと、ハタハタと二頭が動き出した。
(お待たせしたね。)
そして10時ごろ意を決してケースを持ち、自転車の籠に乗せた。
まだ薄曇りだがほんのり日も差してきて暖かくなりそうだ。


彼らを放す場所は決めていた。
うちから近くの公園で、キバナコスモスや菊がまだまだ咲き誇る場所。

ケースの蓋をあけると、待ちきれないといわんばかりにメスのツマグロヒョウモンが出てきて、ふわっと天高く舞った。じゃあねと声掛けし、あっというまだった。

しかし、やや小柄なオスのほうがなかなかでてこない。



みると蓋にしがみついている。いやいやしているようだったが、
指を差し出すとつたってきたので、そのまま、キバナコスモスの花に移してみた。
彼は裏側にまわり、美しい翅をたたんだ。

あたりを今一度見ると、鳥たちがせわしく飛び回っている。
不安なのかな?いや、この不安は私のものだ。
でも花の裏にまわって、彼の裏側の淡いヒョウモン柄が草木にうまくまぎれているから大丈夫じゃないか…

何度もお別れをして、その場を後にした。
蝶は自由に羽ばたけてこそ幸せなのだと思いつつ、強く胸にこみあげてくるものがあった。

おちつかないままあたりをぐるぐるしていて、やはり、あの場所の鳥たちが気になった。
彼らも餌の少なくなってきている今、死活問題で行動しているだろう。
それは十分に理解できる。食物連鎖のことも。命をつなぐということも。

しかし、彼らは、これまでずっと見守ってきたかわいい蝶だ…

思い返してその場所にもどると、彼はまだ花につかまったままだった。
花ごと摘んで、もう一度彼をケースに入れると、次の場所に移動した。
幸いこの地域にはキバナコスモスが所々に多く群生している。
もっと人通りの多い場所なら鳥もよりつきにくいだろう。

日中、買い物客などで多少往来があるが比較的静かなキバナコスモスの場所に、摘んだ花ごと彼を移した。



するとハタハタと舞って、地面に落ちてしまったので、あわてて翅をつまんで花に移した。
彼はゆっくりと翅を広げ、その後、たたんでじっとしていた。
彼にはまだ寒かったのかな…と思いつつ、今日の日差しに期待した。

本当に胸にこみあげてくるものがあり、涙が出そうになったけれど、
元気でね、さようならと声をかけて、その場を去った。
家に帰って、しばらく泣いた。





自分自身、こんなに寂しく、悲しい気持ちになるとは思わなかった。

彼らと出会ったおかげで、美しい蝶を間近に観察できたこと、その完全変態に驚愕するとともに、大きな大きな感動をもらった。
無事に羽化し、ほんのり暖かい日差しの中、大空をはばたき、命をつないでほしい・・・。
それが、彼らの幸せなのだから、悲しむ理由はない。

しかし、とても悲しかった。


どうか、鳥やクモやカマキリなどにつかまらないで・・・(彼らも同じ生き物だけど)
寒さに凍えないように・・・
短い期間だろうけど、命をつないで、生涯を全うしてほしい・・・


安堵と不安と心配と、いろいろな気持ちが渦巻いていて、それらが織りなす色彩は悲しい色だった。
それに反して、空からはまぶしい光が降り注いでくる。
気温はどんどん上がっていく。
こんなに空の明るさ、太陽のあたたかさがありがたいと思ったことはない。

思えば蝶の幼虫を迎えてから、毎日、毎時、天気と気温が気になってしかたがなくなっていた。
まだまだ花も咲いているが、彼らの大事な食物が気になって、散歩に出ては花々をチェックしたりしていた。おかげで日々の運動不足が多少解消された。
彼らの食草であるスミレの群生場所も時折見に行った。まだまだ幼虫がもぞもぞ動いたり、あたたかい日は日向ぼっこをしている。
最近は初秋に蛹になったこたちが羽化する姿も見られるようになった。



・・・ケースから、メスは一目散に出ていき、オスはなかなか出てこなかった。
この様子をみて、「家族」によくありそうな一面を垣間見た気分になった。

母親は息子がかわいいという。私自身、兄弟の扱いをみていてもそういうものなのだろうと思う。
私には子供がいないが、子を持つ親がいざ子離れするときの寂しさや悲しみはこういうものなのだろうかと、蝶を放した時に感じた強い悲しみを重ねて思ってみたりした。


{元気でね
どうか事故にあわぬように 病気やけがをしないように
健康で 幸せに暮らしてね}


そんな思いが今でもずっと、胸の中を駆け巡っている。



ぬけがらの蛹、そして、かれらが一生懸命脱いでのこした、ウニのような脱皮あと。
大切な思い出になりそうだ。


キラキラとした部分は透明でした