Kyon {Silence Of Monochrome}

Kyon {Silence Of Monochrome}
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2017/10/01

蝶は眠る {カラスアゲハとモンシロチョウ}

セミ達がその一生を終え、コンクリートの上に無残に落ちていると、そこでは土に戻れまいと、できる限り拾って土の上に置いてやるのが、私と家人の夏の恒例行事であった。


ある日ふと思った。
空に舞うあの宝石=蝶たちは、いったいどこで一生を終えるのだろうか。
蝶の羽根が落ちているのは時々見かけていたが、そのままの姿というのはあまり見たことが無かった。





そこで、思い出すのは・・・・・


初秋の風が心地よく、すっきりとした穏やかな晴れの日。
家人と私は植物公園へと自転車で向っていた。
目的は豊かな自然と華やかな花が咲き誇る場所で、蝶に出合うこと。

自転車で走行中、突然、前方に黒い塊が見えた。
急いで自転車を止めて見ると、そこには黒くて平たいものが落ちていた。

とても大きな、黒い蝶だった。

命が尽きてまだ間もないようだった。先に走っていた家人も気づいており、Uターンし戻ってきた。
ティッシュにくるんでその蝶を壊れないよう、そっと持ち上げた。
こんな車の往来の激しいところに置き去りはかわいそうだと、意見が一致した。

見ると街や森の中でよく見かけるクロアゲハではないようだ。
表面はビロードの様な質感で鮮やかな青い光沢。溜息が出るほど美しい・・・。
蝶は死してもこんなに美しいのか、とあらためて思った。

以前、写真で見たことのあるカラスアゲハに似ていたが、こんな街中であのような美しく巨大な蝶がいるのだろうかと思った。しかし見れば見るほど、その美しさはカラスアゲハのようであった。

その大きな蝶を壊れないよう、優しく包み、自転車の籠に乗せた。もっと静かで緑の多い場所に移してあげようと。
そして道の途中にあった草の茂る静かな場所に、そっと置いた。
あとは他の命の糧となり、やがて土にもどってくだろう、
地上での一生、本当にお疲れ様・・・とこころの中で想いながら。


その後、植物園で花に群がる三匹のカラスアゲハに出合えた。
とても素早い動きに長い時間翻弄された挙句、至近距離での撮影は叶わなかったが、
その青く輝く美しい姿は、まさに「宝石」であった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

また、とある秋晴れの涼しい午後。

私は春ごろから小さな趣味となっている蝶探しに近所を歩いていた。

最近になって感じてきたのは、雨の降りそうな日・・・空気の重い、湿度が高い日は蝶がなかなか飛んでいないということ。飛んでいるとしても、セセリやシジミチョウなどの小型の蝶が多い。
逆に風が穏やかで、太陽がさんさんと降り注ぐ、まぶしいくらいの日中は、アゲハやヒョウモンチョウ、モンシロチョウやモンキチョウなどが活発に飛んでいる。

そのなかでモンシロチョウはどこでも会える、もっともポピュラーで定番的な蝶なので、最初は写真を撮り続けていたものの、最近はあまり気にもかけなくなっていた。

そんな時だった。突然、目の前にふわっと白いものが落ちてきた。
道路の真ん中に、らひらと舞い降りて、移動する様子がない。
一匹のモンシロチョウであった。
近づけばまた飛び立つだろうと近づいてみたものの、蝶は羽根をパタパタとけんめいに動かすのみだった。

道路の真ん中でこのままにしては、人に踏みつけられてしまうかもしれないし、自動車や自転車にひかれてしまうかもしれない・・・。それはあまりにもかわいそうだと思い、モンシロチョウをそっと持ち上げ手のひらにのせ、近くの草むらにそっと置いた。

モンシロチョウはパタパタとしてすぐにひっくり返ってしまう。それを何度も繰り返す。
もう命は短いと思った。

蝶から離れ少し歩いたが、あの草むらでは人通りも多いしなんだかかわいそうだ・・と思えてきたので、急いで引き返して再び蝶を手のひらにのせた。つぶさないようにおおった両手のなかで、まだ懸命にパタパタと動いている。蝶の命をその手の中で感じた瞬間だった。と、同時に、寂しいような切ない想いが、心の中を駆け回った。

そっと蝶を手に抱えながら、近くの森へと急いだ。
ここなら、静かで緑も深い。

モンシロチョウを枯葉の上に置くと、蝶はまだ動いていたが、それもかすかな動きにみえて、ああ、もう間もないのだなと思った。
心の中に悲しい想いが充満してきた。

見ればパウダースノウのように柔らかい白さで、羽根も身体も、とても美しい。
そしてチャームポイントの黒いモンが愛らしい。
以前からその無垢な美しさにまるで地上の妖精か天使のようだと思っていたが、本当にそう見えてくる。

しかし、その美しいモンシロチョウは細い体を小さく震わせていた。
なんとも言えない悲しみが湧きあがってきた。
さようなら・・・・・とこころの中で手を合わせた。




手のひらに感じた、蝶の最後のはばたき・・・命の温もりが、今でも忘れられない。


蝶もセミも、ネコも人も、最後は土に戻るのが一番よいことではないだろうか。
灰色のコンクリートの上では、一生懸命生きてきた命が、あまりにも切ない。