Kyon {Silence Of Monochrome}

Kyon {Silence Of Monochrome}
上記をクリックするとKyonイラストのホームページとなります。ぜひご覧ください。

2010/08/18

蝉と蝶

とろとろに溶けてしまいそうな猛暑の日、
いつも通る坂道の真ん中に、蝉が一匹、仰向けになって死んでいました。
羽根も身体も、まだ死んだばかりか、とても綺麗です。
連れ合いが、このままでは車にひかれて潰されてしまうと、
道の脇、涼しげな木の木陰に蝉を移動させました。

「コンクリートの上では、死んでも土に戻れず寂しいものだね」
 そんな言葉を交わしました。

翌日の朝早く、幾分涼しい日でした。
また同じ坂道を上って行くと、小さな猫が一匹向こうからトコトコ歩いてきます。
何か見つけた様子で、それに向かって真っすぐに歩んできます。
猫はあまり食べていない様で、痩せていました。
猫の視線の先には、1匹の蝶。
羽根もボロボロに、それこそ虫の息で必死に草木にしがみつく、黒アゲハでした。
羽根をゆっくりと動かしていますが、もう飛べそうもありません。
しかし、猫もお腹を空かせている為か、
その蝶を懸命にいじくっています。
食べたら中毒をおこしかねない蝶でも、
その猫は食したい程、空腹だったのでしょうか。
私は、その両者が何だか切なく見えて、後ろ髪をひかれる思いで、仕事に向かいました。

その日の夕方、仕事を終えて帰路、その坂道を下る時、
うすぼんやりとした空気の中に、黒いものがヒラヒラと道になびいています。
近寄ってみると、それは朝に出会った瀕死の蝶でした。
羽根は更にボロボロで、見る影も無く、
無残な姿で死んでいました。

このままでは車にひかれたり、ふんずけられて、更に可哀そうだと思い、
その蝶を持ち上げようとすると、なかなか動かない・・。
すでにお腹の一部が少し踏まれていて道にへばり付いています。
それでもなんとか、蝶を持ち上げて、
土のある、小さな木陰に移動させました。

「コンクリートの上では、死んでも土に戻れず寂しいものだね」
先日の会話が、その時、私を突き動かしていました。

せめて土の上なら、他の生き物の栄養となるかもしれないし、
土の栄養となり、新たな植物の糧となるかもしれない。
道路の上で、無残に踏みつぶされ、粉々になり、
行くあても無く吹き飛ばされるより、
遥かに土の上での死は温かく、次の「生」を感じさせるものです。


「無縁社会」と呼ばれる現在、
孤立死を迎える人は、年間3万人以上といわれます。
私ももしかしたら、何十年か後、この蝶のようになってしまうかもしれない。
小さな蝶の死は、やがて来る自分自身の死へと繋がってゆきます。
その時、せめてこのように、土に返れるような死でありたい。
私は蝶を救いたかったわけではなく、
自分自身を救いたかったのかもしれません。