Kyon {Silence Of Monochrome}

Kyon {Silence Of Monochrome}
上記をクリックするとKyonイラストのホームページとなります。ぜひご覧ください。

2010/02/14

郷愁

先日吉祥寺で見た斉藤真一氏の「瞽女と哀愁の旅路」展に非常に感動した私は、
早速「瞽女~盲目の旅芸人」を購入して読むことにしました。

10年を費やして越後の瞽女宿を旅し、書き綴られたその本は、
読んでいると、自分もその雪深い道を一緒に歩んでいるような錯覚におち、
囲炉裏を囲んで和やかに談話している中に、私もちょっとお邪魔させてもらっているような気分になります。
書かれたのは40年も前で、瞽女さんの歴史は300年にも及びますから、
時代背景など私の想像力では足りない部分が殆どです。
囲炉裏や、まきで沸かす風呂など入ったことがありませんし、
旅に興味が無いのもたたって、東京から殆ど出たことがありません。
祖母は仙台の出身でしたが、田舎の話は数えるほどしか聞いたことが無く、
今になって、もっと聞いておけばよかったと、後悔しています。
しかし斉藤氏の、穏やかで愛情と哀愁に満ちた文章のおかげで、
こんな私でも、すぐそばでお話を聞き、風景を見ているような臨場感が味わえるのでしょう。

越後といいますと、
特にこの時期から、「フジロック」という野外フェスが気にかかり、
それには毎年行っているのですが、
またこのようなきっかけで、越後に思いをはせるようになるとは想像していませんでした。
「フジロック」は、大変大きなロックフェスティバルで、
若者を中心にとっても盛り上がる、私たちにとっても重要なイベントなのですが、
それとは真逆の感性の中にある、
静寂と哀愁の旅路に、私は不思議ととても魅かれるのです。
できれば、同じ道筋とは行かないまでも、
斉藤氏が見てきたその瞽女の旅してきた路を見てみたい。
そんなことを考えていた時、ふっと栃木の田舎を思い出しました。

主人の田舎は栃木の山奥にあるのですが、
農業を営んでおり、その棚田は本当に見事なものです。
私は車で通る山道にいつも酔ってしまいとても苦手で、
その事ばかりを重く考えてしまうことが多かったのですが、
日本の原風景ともいえるあの素晴らしい景色を、
何故もっと目に焼き付け、感じようとしなかったのかと、反省しました。
そして帰る度に用意してくださる、食べきれないほどの沢山の御馳走。
これも有難く頂かなくてはなりません。
15キロ程もある荷物を背負い、長い雪の道を必死で歩いて、
訪れた家々で唄を歌い、村人を楽しませ、
そのお礼に差し出される沢山の御馳走に深々と頭を下げる瞽女さんの姿が、
私の胸を締め付けるようです。

吉祥寺での「出会い」が私の心に波紋を広げています。
東京で育ち田舎の無い私にとって、
郷愁とは一種憧れの感情であり、
それが身近になることによって、満たされる幸せがあります。
そして今年も行くであろう「フジロック」の新潟と、連れ合いの田舎の栃木への短い帰郷が、
私の心の眼ではいつもと違った風景に見えるだろうと思います。